高天原を追われたスサノヲは出雲国の肥河の上流にある鳥髪という地に降りた。このとき、その河から箸が流れてきたので、川上に人がいるのだと思い、スサノヲは上流へと尋ねていった。
すると老人と老女が二人おり、その間に少女を置いて泣いていた。
スサノヲが「あなた方は誰か」と問うと、老人が答えた。
「私は国つ神の大山津見神(オホヤマツミ)の子です。私の名は足名椎(アシナヅチ)、妻の名は手名椎(テナヅチ)、そして娘は櫛名田比売(クシナダヒメ)と申します」
また、スサノヲが「あなたが泣く訳は何か」と問うと、老人が答えて言った。
「私の娘は元々八人おりましたが、高志の八俣の大蛇が毎年娘を食ってしまいます。今年も大蛇が来る時期となったので、泣いているのです」
そしてスサノヲが「大蛇はどのような形をしているのか」と問うと、答えて言った。
「その眼は赤く、身一つに八つ頭と八つ尾。その身には木々が生え、長さは八つ谷と八つ山を渡るほどです。大蛇の腹は常に血がただれております」
するとスサノヲが老人に言った。
「あなたの娘を私にくださらないか」
「恐れ入ります。しかし、あなたの名前も存じませんので」
「私はアマテラスの弟である。今、天から降りてきたのだ」
スサノヲが名乗ると、アシナヅチとテナヅチは答えた。
「ならば恐れ多いことです。娘を差し上げましょう」
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